バスティアンとバスティエンヌのその後

 さて、「バスティアンとバスティエンヌ」の続き。モーツアルトはこれをウィーンの医師アントン・メスメルの依頼で書いたそうです。メスメリズムのメスメル(メスマー)です。とはいえ動物磁気だの催眠療法とは無関係。ネタはジャン・ジャック・ルソーの「村の占師」のパロディ「バスティアンとバスティエンヌの恋」。啓蒙思想ともあんまり関係なく、要するに痴話喧嘩コメディです。登場人物はカップルと占い師のコラというたったの三人。普通はソプラノ、テノール、バスという編成になります。
 このジングシュピールと出会ったのは20年以上前のこと。ウィーン少年合唱団が来日した時、放映された合唱団の紹介映像で「バスティアンとバスティアンヌの二重唱」がほんの十数秒流れたわけです。
 これはいいな。美しくて、愛らしくて、ええ、もう、どうしてくれよう…。
 ぼくは音楽に関してはマニアではないので、どうしても音盤を所有したいと思ったのはコレとギョーム・デュファイの「ミサ・ス・ラ・ファセ・エ・パール」(シュミットガーデン指揮/テルツ少年合唱団)だけ。デュファイのLPは後にヤフオクで格安で落札して、残るは「バスティアンとバスティエンヌ」だけ。
 で、コレがこの間、ヤフオクに出品され、あれよあれよというまに一万五千円まで競り上がってしまいました。確かに今となってはレア盤だし、オペラ好きとウィーン少年合唱団ファンとモーツアルト・マニアが三つ巴になりそうな盤ではあるのですが、一万五千円はキツイ! オークションはなんか自分の執念の価値を金銭で計られるようなイヤなところがありますね。
 口惜しいので再び検索かけまくり。せめて試聴だけでもしたい。すると、行くところに行けば(ドイツのサイトだけど)、MP3ファイルが見つかったりするわけなんですね。ところがソースに関するデータが一切書いてない。限りなくグレーです。物書きのはしくれとしては著作権に関しては敏感にならざるをえない。これが、違法コピーだとわかっていれば手を出せない。しかし、悩ましいことに違法かどうか判らない。とにかく試聴してみないことにははじまらない。
 試聴しはじめた時点で、バスティエンヌ(ソプラノ)が女声でないことに気付きました。しかもバスティアンもソプラノ。コラがアルトという少年合唱団編成。となると、「ドイツの町のオペラ好きが地元の合唱団とオーケストラを使って、このよくわからん(ドイツ語なので)サイトのために録音した」という確率は天文学的に低い。しかし…廃盤だし、この際、手に入れるまでの繋ぎに…という悪魔の囁きが…。ところが、全曲のうち一曲のみリンク切れ! 悪いことはするなという天の声でしょうか?
 仕方なく再度、探し始めたら、アッサリと見つかりました。イギリスのレア盤屋でLPが…。残念ながらCDがあるとわかっててLPを買うほどのマニアではありません。泣きながらダメ元で、以前品切れだったアマゾン・ドット・コムに行ってみたら、なんと二枚もユーズドで、しかも一枚は未開封の新品を発見。若干プレミアがついているものの約30ドル。到着は一月後かな? とりあえず、めでたしめでたし。まだ中古盤が一枚残っているのでお探しの方はAmazon.comへ。