山ン中

山ん中の獅見朋成雄

山ん中の獅見朋成雄

  • 変人の書の師匠と牧歌的な田舎暮らしを楽しんでいる背中に鬣を持った俊足の中学生を語り手とする長編。伝奇的な冒険奇譚として楽しんで読みました。ネタバレになるので詳細は省きますが、残酷で異常な物語空間であるにもかかわらず呑気な夢見語りのような感覚が全体を覆っています。異界に通じるトンネルだの、象徴的な馬の存在だの、師と弟子の関係性だの、構造主義的な神話分析を誘うような仕掛けになっていて、頭のいい人ほど作者の術中に陥るでしょう。余計なことを考えず一人称主体に意識を沿わせて物語の流れのままに一時の夢見を楽しむのがお得だと思います。