パックス・モンゴリカ

パックス・モンゴリカ―チンギス・ハンがつくった新世界

パックス・モンゴリカ―チンギス・ハンがつくった新世界

 チンギス・ハンとモンゴル帝国の側から描き直した世界史。西欧的世界観からは全く目隠しされていた史実の数々に興奮。モンゴルの騎馬軍団が単に剽悍なだけではなく、宣伝戦や情報戦にも強く、当時最新の軍事テクノロジーを有していたこと。モンゴル帝国では信教の自由が保証され、キリスト教徒の勢力が大きかったこと。法治国家であり、拷問を禁止していたこと。男が何年も出征するため本国では女性が事実上政権を運営していたこと。第二次大戦末期まで帝国の「分家」が生き残っていたこと。ソ連がモンゴルの歴史を徹底的に抹殺しようとしたこと。元朝は海に弱く、日本侵攻だけではなく東南アジア侵攻にも失敗していること。
 これは塩野七生の『ローマ人の物語』でも言われていることだが、地球半周帝国の経営の成否は、征服した異民族をいかに吸収するかにかかっている。奴隷や二級市民扱いでは長続きしない。言語、宗教を強制せず、法的平等を保証し、有能な人材を政権に参加させてこそ求心力も高くなる。その意味ではローマやモンゴルは比較的上手くやったということだろう。
 ただ、この同化政策は、元々の帝国の質を否応なく変えていく。それは大モンゴル帝国が分裂し、それぞれの「分家」が地域の文化の色合いを強めて行くのを見ればわかりやすい。