絶版はなくせるはず

 CD、DVD、書籍が欲しいと思った時に手に入らないというのは悲しい。特に、一回買い逃して、絶版になって、再発されたことに気付かないまま二度目の絶版というのにぶつかった時は最悪。いや二度目か三度目の絶版寸前に気付いたけどお金がないという場合の方がキツイですね。最近、昔買い損ねてしまったフェリーニの作品がDVD化されていたことにようやく気付いたけど、品切れ寸前だったりするわけです。興味のあるジャンルを網羅的に毎日チェックするなんて無理なのでいたしかたのないことではあるんですが、なんとかならんもんか。大金持ちになって情報チェック係を雇うというは非現実的すぎます。そういう職業があるならぼくがやりたい。
「殿、お探しの○○と××が再発されるそうです」
「うむ、でかした。これは褒美じゃ」
 という職業。
 ここ数年来ぼくが考えているのは「さっさと、オンデマンドが普通になって欲しい」ということです。
 今は映像も、音声も、文字データもデジタルで「版元」か「著作者」にストックされています。これを死蔵しても仕方ないんじゃないか? ただし、復刊は大変です。コストというものがかかる。売れなかったら困ったことになるわけです。例えば書籍の場合、売れ残りは倉庫で保管します。倉庫代が馬鹿にならない上に、売れ残りの山が「資産」とみなされて税金がかかっちゃう。昔は出版社も余裕がありました。文化事業だという自負もあった。ところが今はコストを圧縮するのが至上命令です。かくして、
「特に人気漫画って巻数多いでしょ。昔は、例えば、『○○を全40巻』ってお客さんから注文が入っても対応できたんですよ。出版社が揃いで確保してくれてた。ところが今、そういう発注をかけると歯抜け状態で送ってくる。だからウチらとしても、責任持てないから、漫画の注文はお断りするしかないんです」
 というなんとも悲しい話を書店の店長から聞くことになるわけです。そんなテイタラクだから、全10巻以上の長編は漫画喫茶で一気読みてことになるわけだ。
 オンデマンド出版ならば、現在のデータ資産をそのまま使えます。現物じゃないから税金もかからない。
 ただし、オンデマンドで注文生産する、紙に印刷して本にするには現在のシステムではコスト高になります。従って初版よりも高価格ということになります。送料もかかります。
 例えば青林堂が「ガロ」を創刊号からすべてオンデマンド復刻するという企画を告知したことがありました。結局、版権等の問題で実現化しなかったのですが、告知では1700円という価格でした。「ガロ」がひじょうに価値の高い文化資産であることは認めます。研究者にとってはありがたい企画でしょう。個人で全巻揃えるのは価格的にキツイとしても研究機関や図書館なら大丈夫です。ただ、この価格では、一般の漫画ファンは創刊号やよほど読みたい特集が掲載されている号は手を出しませんね。
 これは特殊な例だったかもしれません。
 極少部数の本をローコスト&ハイクオリティで印刷製本できるハードウェアと、現在の流通を活かして、書店やコンビニで注文すれば一週間以内に受け取れるシステムができればオンデマンド出版も現実味を帯びてきます。
 でも、待ってられない。そこで考えられるのが、データそのものを販売するという方法です。アップル社が大成功した音楽配信ビジネスですね。あれは映画でも書籍でも可能でしょう。データが大きすぎてオンライン向きではないとしたらDVDで供給すればいい。もちろん、現物の本の手触り、扱いやすさ、CDやDVDのライナーの魅力というのも捨てがたいのは当然です。でも、まず、読みたい、見たい、聴きたいが先行します。データ販売が現物の再版を抑制するのではないかというおそれもありますが、もし、そうなったとしたら、それはそれだけの物だったということでしょう。たとえばMP3でも聴ければ満足というものもあれば、MP3で聴けていてもCDが出れば絶対に買うものもあるわけです。
 ある漫画家さんと話した時、「結局、複製やバーチャルに負けない現物を作るしかないのでは」という結論になりました。
 オンデマンドの最大の魅力は個人がローリスクで出版業に参画できるという点です。実際にそういう形での自費出版事業を始めている会社も存在します。今はまだ自費出版という位置づけでも、技術の進化によって近い将来、劇的な変化が書籍と音楽出版に起きるかもしれません。