バーンスタイン夫人の散髪

 ようやく『グレン・グールドの生涯』を読了。グールド財団のバックアップを受けながら、綿密に取材し、なおかつグールドが書かれたくなかってあろうところまで踏み込んでいます。幼少期の子供社会から浮いてる姿と晩年の肉体的惨状の描写には泣けてきます。晩年の日記に「幼児期以来の失禁」なんて記述があったというくだりにはもう泣けて泣けて。もちろんそういう悲痛な部分以外にも一杯読みドコロがあります。例えば、ぼくが好きなのは、グールドとバーンスタインが初めて会った時、帽子を無理矢理脱がしたら、汗で髪がぐしゃぐしゃになってて、バーンスタインの奥さんが、グールドをバスルームに連行して、頭洗って、散髪したというエピソード。なんてことはない話ですが、なんかこう、ほのぼのしてきます。あと、グールドのコントロール癖とも関連して、インタビューイの一人が「こうやって誰かが伝記を書くために私に会いに来るということも彼が仕組んだことなのよ」と述懐するところとか、グールド生存説(エルビスじゃないんだから…)とか、細かいところを挙げていけばキリがない。というかそういうトリビアじみたところまで含めて読み応えがあります。
 グールド関係の本は色々出ています。全部読んだわけじゃないけど、その中でも出色の一冊と言えるでしょう。