NHKの朝ドラには不向きなれど

  • 長谷邦夫「漫画に愛を叫んだ男たち」(清流出版)
    • 失礼ながら予想以上の面白さでした。いわゆるトキワ荘ものというのは『まんが道』をはじめ幾つかありますが、当事者がここまで突っ込んで書いてくれるとは! 著者の長谷さんは、ぼくらの世代ですと赤塚不二夫のブレイン的存在で、「パロディ漫画」の開拓者として印象に残っています(もちろん『パロディ漫画大全』も読みました。懐かしいんだけど、リアルタイムに読んでこそのネタが多く、その点はちょっと切ない)。本書は長谷さんの自伝小説です。それにしてもなんと濃密な人生であることか。赤塚不二夫の頭脳であり、時にはゴーストであり、日本SFの創生期にも立ち会い、詩を書き、山下トリオにくっついてヨーロッパに行き、素人時代のタモリと知り合い…。とはいえ一番の凄味は赤塚さんに関するところでしょう。おそらくあれだけの天才のそばにいれば、自分も表現者である以上、敬愛の念だけではなく、嫉妬も反発もあったと思います。避けては通れない。しかし、それを描くとすれば綺麗事では済ませられないし、かといって、一つ間違うと露悪趣味になります。そこんとこのバランスが絶妙です。センチメントを抑制し、抑制しつつ、溢れていくるものがある。赤塚さんがアルコール依存症でどんどん壊れて行く。周りもどうすることもできない。「おそ松くん」を読んで育った僕としては、そのくだりは読んでて、泣きたくなりました。ドラマならばハッピーエンドが待っているんだけどなあ。
  • 長谷さんのはてな日記