裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争

裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争

裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の

裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の

  • 打海文三の長編。日本が内戦状態にある近未来が舞台。上巻は戦争孤児である少年・海人が妹と弟を守るため兵士になり、頭角を現していく。ヒーローであることを意識しないヒーローによるサバイバル小説と言ってもいい。だが、海人を精神的に支え、母性原理で律するのは妹の恵であり、大家の未亡人であり、直属上官である女性将校だ。下巻では海人の親友である戦闘的な双子姉妹の活躍へと視点が移動する。ヒロイックな主人公だけでは戦争という現実を支えきれない。主役の座がトリックスターである双子姉妹に移ることにより、この物語の持つ政治性が前面に出てくる。多中心的なマイノリティ・ネットワーク、功利主義的に離合集散を繰り返す軍&マフィア、排外的な男性原理に回帰するカルトという三つの勢力の闘争は、近未来に投影された現在の日本の姿と見るべきだろう。その意味で啓蒙的で批評的だという見方も成り立つが、それらの要素を大いに含みつつ、あくまでも一級の娯楽小説だというのがすばらしい。