グレン・グールド〜 ロシアへの旅

 昨夜、録画しながら視聴。ソ連公演の衝撃が相当大きかったというのはグールドの伝記に書かれていることなので、知ってはいましたが、今回のドキュメントでは旧ソ連側の、アシュケナージを初めとする音楽関係者の証言が収録されていて、とんでもない事件だったのだと再認識。
 最初のリサイタルでは「グレン・グールド? 誰や? しかもバッハ」みたいな反応で客席も半分くらいしか埋まらなかった。グレン・グールドの名前はソ連まで届いていなかったどころか、カナダ国内でさえ音楽ファン以外には無名だった頃の話です。そんな聴いたこともない名前のピアニストがバッハを弾く。当時のソ連ではバッハは半ば禁止されており、音楽家の間でも退屈な音楽だと思われていました。だからリサイタルに足を運んだ人々は「あえてバッハを弾くというのが面白い」「とにかく西側の音に触れたい」という感じだったそうです。ところが第一部を聴いて、みんなブッ飛んじゃった。これはとてつもなく凄いことが起こってるということがわかって、休憩時間には観客たちが電話をかけまくった。その結果、第二部が始まる直前にはホールの前に人々が押し掛けて、アッという間に満席。こういうことがモスクワでもレニングラードでも起こった。しかも新ウィーン楽派のレクチャー・コンサートまでやった。これが観客にはウケなかったんですが、それまでロマン派で停まっていた音楽関係者には凄い衝撃だったそうです。証言者の二人が異口同音に「まるで宇宙人が来たって感じでした。人間とは思えなかった」と言っていたのが印象的です。「私はグールドくらい上手く弾けるけど、そうしないのはグールドみたいに練習しなければならないからだ」というリヒテルの発言の引用も面白かった。カナダが作ったドキュメントなので、ある程度は割り引いて考えるべきでしょうが、20世紀後半のソ連ロシア音楽にとってグールドの受容というのは決して小さな事件ではなかったことは間違いないでしょう。

グレン・グールド/ロシアの旅 [DVD]

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Live in Salzburg & Moscow

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  • 現行の輸入盤。ザルツブルグのゴルトベルクとモスクワのインベンションを収録。


ライヴ・イン・ザルツブルク&モスクワ

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