グルック『思いがけないめぐり会い、またはメッカの巡礼』

 法人会のプレゼントに応募して招待券をゲット。2階2列目という舞台全体を見渡せて、おまけにオーケストラ・ピットも丸見えというA席としては上々の座席です。
 演目はグルックの『思いがけないめぐり会い、またはメッカの巡礼』(1764)。フランス語によるオペラ・コミック。
 グルックってあんまり聴いていないし、この演目自体、日本初演(?)というマニアックさ。
 指揮の寺神戸亮演奏家としてのCDは聴いているものの、指揮者としては初聴きです。
 唯一、実演で聴いたことがあるのは森麻季だけ。
 そんなわけで、ドキドキものでした。
 ところが、そんな不安を吹き飛ばす超楽しい舞台だったので、今のオレはとても幸せ。
 ストーリーは素朴というか超シンプル。異国の地で離ればなれになったカップルが再会する。
 ただ、彼女の方が茶目っ気がありすぎで、サルタンの後宮に捕らえられているくせに、彼氏の貞節をテストしようとするワケだ。さっさと逃げればいいのにバカですねー。最後はデウス・エクス・マキナ的にメデタシメデタシになるからいいけど、そうでなきゃ重ねて四つにされちゃってますぜ。
 これだけ単純な話だと、一時間もあれば終わっちゃうわけだが、そこはそれ、筋立てとは関係のない頭が変になっちゃったフランス人画家が登場して冗談音楽的な見せ場を作ったり、ダンスを入れたり、お楽しみをテンコ盛りにして全3幕に仕立ててある。
 で、もちろんというか、やっぱりというか、凄かったのはヒロイン、レジア王女を演じた森麻希。技術も華も「世界ランカー」なわけで、他の出演者には申し訳ないが、舞台をさらっちゃう。長いアリアを聴いてる最中に「これ聴けただけで、ここに来た価値はあるなあ」とか思っちゃいましたよ。
 アリ王子役の鈴木准は綺麗な声だけど、ちょっと線が細いイメージ。ただ、王子のキャラ自体がそもそも弱いんで損したかなあって感じ。逆に王子の従者オスミン役の羽山晃生は得してます。だいたいコミックリリーフな従者役って美味しいと思う。可愛いし、動きもいい。キャラが美味しいといえば、頭が変な画家ヴェルティゴ(大山大輔)は、赤塚不二夫的なブッ飛んだキャラで、出てきただけで笑いをさらっちゃう。
 ちょっと微妙だったのは、アリアは原語(フランス語)、台詞は日本語という上演形式。この形式だからこその面白味を織り込んではあるのだが、耳の楽しみとしては日本語が割り込んでくる感じで違和感が残った。まあ、そもそも通常のオペラとちがって「歌手」が台詞を言わなければならないってところから大変なんだけど。